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法人税引き下げ議論の前に、現状を把握しよう:よくわかる国際税務入門 [法律]


よくわかる国際税務入門 第2版 (有斐閣選書)

よくわかる国際税務入門 第2版 (有斐閣選書)

  • 作者: 三木 義一
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2010/04/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



以前にエントリを書いた「よくわかる税法入門」のシリーズ。
軽いノリとは裏腹に、良くできた入門書である。
そして、出来が良いからこそ、日本の税法の問題点が浮き彫りになってしまっているのが興味深い。


【目次】
プロローグ 国際租税法という法律はない!
《個人編》
第1章 家族が海外勤務になると税金はどうなる?
第2章 外国人が日本で働くと税金はどうなる?
第3章 租税条約ってどんなもの?──国際税務の方程式
第4章 住所か国籍か──動揺し始めている判断基準
第5章 国外からの相続・日本にいる外国人の相続
《企業編》
第6章 外国法人が日本に支店を設立すると?
第7章 恒久的施設(PE)を探せ!
第8章 外国会社からの莫大な借入れ──過少資本税制
第9章 国内法での二重課税の非除──外国税額控除と外国子会社配当益金不算入制度
第10章 移転価格税制(1)──移転価格税制の基礎
第11章 移転価格税制(2)──独立企業間価格の算定方法
第12章 タックス・ヘイブンを利用すると?
第13章 条約釣り(Treaty Shopping)とその規制
第14章 条約と国内法(1)──総合主義か帰属主義か
第15章 条約と国内法(2)──使用地主義か債務者主義か
第16章 国際取引の新展開と国際課税
第17章 国際税務行政と権利救済
エピローグ 国際税務感覚を身につけよう


現在、経済成長戦略の一環として、法人税の引き下げが議論の俎上にあがっている。
世界的に見て高いと言われている日本の法人税が、日本国内への投資を阻んでいるというのが、その主張の理由だ。

と、ここまでは新聞・ニュースでよく目にする結論だ。
では、現状の税法はグローバル化が進む世界にどのように対応しているのだろうか?
この点に、大まかにでも答えられる人は少ないだろう。
この問題を考える上で不可欠で有りながら、知っている人は少ない。そんな知識を補うのに最適なのが本書である。


本書を読んだ限り今の国際税務については、税率の安い国に会社を設立することによる、税金の引き下げが出来ないように最大限の努力を払っている。
本書を素直に読むと、グローバル企業が日本を避けるのは当然のように思える

法人税率を下げることは(当面)難しい。
かといって、法人税率の安い国で企業を設立しても、日本に本社・支社等を持つと、課税逃れ防止を名目にごっそり持って行かれる可能性が高い。
それじゃあ、日本市場が必須ではないグローバル企業は日本を避けるようになって当然だ。
せめて、税率の安い国の努力は尊重しつつ、日本でもそれに応じた課税で対応するようにすればいいのに、有害税制の一言で切って捨てるのでは、あまりにも時代遅れに思える。


私は、「よくわかる税法入門」の書評エントリでは、左翼的言論が気になると書いた。
そのときの素直な気持ちだったのだが、本書を読むと考えが変わった。
税法については、法の解釈をする人の問題より、法律自体に問題が多い。というのが今の感想だ。

法人税率引き下げの議論と併せて考えると味わい深い一冊。
法人税引き下げ議論に興味を持っている人は、社会保障論だけでなく、こうした方向からの視点を持つ意味でもチャレンジして欲しい一冊だ。

☆☆☆★(☆三つ半)

他のBlogの反応はこちら
http://bookguide2010.blog2.fc2.com/blog-entry-16.html
http://d.hatena.ne.jp/kobarin/20080509/1210338797
http://youngblood.cocolog-nifty.com/youngblood/2008/03/post_8b81.html
明らかに専門家筋のBlogが多数。
専門家にも使えるクオリティを持ちつつ、読みやすいのは素晴らしいの一言です。





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