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江戸時代の筋悪プロジェクト:江戸の小判ゲーム [歴史]


江戸の小判ゲーム (講談社現代新書)

江戸の小判ゲーム (講談社現代新書)

  • 作者: 山室 恭子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/02/15
  • メディア: 新書



ゲーム理論を元に江戸時代の徳政令(正しくは棄捐令)と貨幣改鋳について考察しようとした一冊。
正直なところ、ゲーム理論関連の説明はイマイチだけどプロジェクトX的に松平定信の政策を追っていく部分は面白い

【目次】
第1章 お江戸の富の再分配
 五〇年に一度の決まりごと
 目的は世上融通 ほか
第2章 改革者たち
 チーム定信の陣容
 棄捐令プロジェクト ほか
第3章 お江戸の小判ゲーム
 貯金する罪
 改鋳浮説 ほか
終章 日本を救った米相場
 未曾有の大値段
 江戸の動き ほか


本の紹介を見ると”ゲーム理論”という言葉が出てくるが、ゲーム理論の内容は殆ど出てこないし、貨幣改鋳で提示されている”展開型ゲーム”の話を見てもあまり正しい内容だとは思えない。
(展開型ゲームで結論が見えているのに、不利な選択肢をプレイヤーが選ぶような説明がされているあたり)
ただ、歴史学の教授らしく松平定信のビッグ・プロジェクトを追いかけた流れは秀逸で、非常に楽しんで読むことが出来た。

本書で取り上げられているプロジェクトは二つ。棄捐令(=徳政令)と貨幣改鋳だ。
筆者はこれらの政策に独特の評価をしており、松平定信は貨幣を回すために行ったと解説している。これは文学専攻の筆者ならではの解釈だろう。経済学が専門なら、本書のような評価にはならないはずだ。

本書で語られているプロジェクトは現在の起業でプロジェクトを遂行する身からしても意外と参考になる。異なる立場のブレーンたちの協力、抵抗勢力の存在、状況の変化、方針と実行のギャップ……。幾多の苦難を乗り越えて政策を実行していく様子がいきいきと伝わってくる。

そして、苦労して実施した政策が必ずしもプラスになっていないという面もプロジェクトXと同じ。
筆者は松平定信が苦心して経済を回す様子をプラスに評価するが、そもそも田沼意次の時代にうまく回っていた経済をイデオロギーにもとづいて失速させておきながら、変則的な方向で経済を回そうとするから余分に苦労しているようにしか見えない。

本書を読めばわかるが、松平定信という人物は、建前や筋道に無駄にこだわり、政策実行を危うくしている。言わば、中国の科挙官僚のような存在であるように思える。
ただ、そうしたクセのある上司からのオーダーを受けて、なんとか動くシステムを作る部下の苦労。これもまたプロジェクトの一面であり、非常に勉強になる。

本書の売り文句はあまり信用ならないが、江戸時代のプロジェクト例としては面白い本書。
ダメな上司のもとで苦労しているサラリーマンなら関心を持って読むことが出来るだろう。

☆☆☆(☆3つ)

他のBlogの反応はこちら。
http://blog.livedoor.jp/malmondo/archives/51785779.html
http://blog.livedoor.jp/yamasitayu/archives/52024347.html






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