だらしない男を通じて語られる歯ごたえあるミステリ:迷宮遡行 [小説]
私の好きなミステリ作家、貫井徳郎のデビュー第二作烙印 を本人がリライトした作品。
主人公がだらしない男に設定されているため、気楽に読めるのだが、筆者の持ち味が生かされたストーリーは読み応えがあり、ミステリとしてお勧めのできる作品になっている。
話は妻に逃げられた男が妻を捜す途中で、トラブルに巻き込まれながら謎を解いてゆくストーリー。
主人公の妻の正体が最後まで語られないため、読者はさまざまな思いを持ちながら謎を楽しむことが出来る。
最後の解説で法月綸太郎が言っている様に、主人公をいかにもなタイプに設定するとハードボイルドのよくある作品に見えてしまうだろう。それを、作者は主人公をあえてだらしない男にリライトすることで、ハードボイルドとしての作品からミステリとしての作品によみがえらせることに成功している。
筆者の作品が好きな方には自信を持ってオススメできる作品であるし、筆者の作品をデビュー作の慟哭 (創元推理文庫) だけであきらめてしまっている人にもぜひ挑戦してほしい作品である。
なお、登場人物の内面描写や心理描写で話が進むタイプのミステリではなく、謎をしっかりと楽しむことの出来る作品になっている。貫井徳郎が直木賞に縁がない(エントリされたのも愚行録 一作だけ)のもこのタイプのミステリが多いせいだとは思うが、それも持ち味。少なくとも私はこの路線が大好きである。
☆☆☆★(☆三つ半)
余談になるが、個人的に貫井徳郎の作品で一番面白いと思ったのは以下の作品。早く続編が出て欲しい。
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