日常の悪意を女性目線で描いた短編集:歪んだ匣 [小説]
神谷町のインテリジェントビルを舞台にした、短編連作小説集。
舞台となったビルは、呪われたビルであるかのように事件が多発する設定となっており、日常に発生する怖い事件を通じて、人々の裏の顔が綴られている。
作品は全部で9話収録されており、その中身は謎解き風のミステリあり、ほろっと来る暖かい話しがあり、人の心に潜む悪意にスポットライトを当てた話ありとバラエティに飛んでいて、飽きさせない作りとなっている。
また、インパクトにあふれた登場人物は多くないが、無個性というわけではなく、日常にいそうな人物像が描かれており、読んでいて違和感を感じさせない。
登場人物の描き方をとってみても、隠れた実力派永井するみの持ち味・力量が発揮されている。
このように、日常を舞台にした事件から、人の裏の顔・本当の顔を描ききる実力を持った筆者だが、なぜか超一流の評価は得ていない。作品数も多く、安定していてはずれがないと思うのだが、中の上・上の下くらいの評価でそろってしまっているのである。
私が思うに、その理由は、永井するみの描く女性像に癖があり、受け付けにくい人が居るためではないだろうか?
ヒロインに強く感情移入したり、共感したりできることが少ないのだ。
人物像には納得しても、一般的に支持されるヒロインではないため、作品の評価の面で割を食ってしまっているのであろう。
それが筆者の持ち味であることは否めないのだが、文体・ストーリーは十分満足でもヒロインの性格・考え方についていけないという読者は多いものだと推測される。
その意味では一度チャレンジしてみて読後に不快感がなければ他の本も薦められるというタイプの作家であると言える。
☆☆☆★(☆三つ半)
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