ダメ大学生の生態を描いた短編集:走れメロス他4編 [小説]
森見登美彦が過去の傑作を元に描いた連作短編集。
といっても、「カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)」のようなものをイメージすると裏切られる、オマージュとしてダメ大学生の実態を描いた森見登美彦らしさ爆発の作品になっている。
京都大学を舞台に、愛すべき阿呆大学生の生態を描いた作品。主人公となる人はそれぞれ違うけど、一日中下宿に引きこもっていたり、留年と休学を繰り返して大学最長在学記録を樹立したり、詭弁を弄して人を煙に巻いたり、無駄なイベントに労力をかけたりとろくでもない人ばかり。
それでも、主人公たちには愛嬌がある。
有名な話だが、「アホ」は東京の人が思うほど、関西の人にとってはひどい響きがない。
小説の舞台が京都大学なので、東京で大学生活を送った人には若干違和感を感じる表現があるかもしれない。しかし、今となっては古めかしいモラトリアム大学生の生態を描かせると当代一の森見登美彦だけに、東京の人でも十分に楽しめるはず。
アホ大学生の奇行と恋に悩む「童貞」学生の妄想が入り混じった、筆者の持ち味が最大に生かされた傑作である。森見登美彦の作品が嫌いでない人には確実にオススメできる。
私はいい年をした社会人だが、学生時代を思い出してほろ苦いノスタルジーに浸ってしまった。
大学時代が遠く昔になった人でも十分に楽しめる一冊である。
余談だが、東京の大学生(あるいは京大以外の大学生)も麻雀の隠語で「中国語の勉強」って言うのかな?
☆☆☆☆(☆四つ)
ちなみに、本書でオマージュの元になった作品は以下
山月記
藪の中
走れメロス
桜の森の満開の下
百物語
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