美術業界のダークサイド:文福茶釜 [小説]
美術業界に巣食う欲の皮の突っ張った人々を痛快に描いた作品。
美術業界を扱った漫画としては「ギャラリーフェイク 」が有名だが、本書の登場人物は基本的に芸術を愛していないのが特徴。
みんなが自分の利益のために行動しているのだ。
本書は連作短編集であり、一番良く出てくる登場人物は美術雑誌の編集者。
ここで言う美術雑誌ビジネスとは、大物芸術家と同じ雑誌にインタビューを掲載すると言う名目で、無名の作家から掲載料を取って儲けるビジネスモデル。もっとも、掲載された無名の作家はその雑誌を使って素人に高い値段で絵を売りつけるので完全なカモではなく、元は取れるらしい。
そのほかの登場人物も、美術品ブローカー・ギャラリーのオーナー・表具師・贋作作家・宗教団体教祖と胡散臭い人のオンパレード。
素人を含めて浴の皮の突っ張った登場人物であふれかえっている。
それらの登場人物が「素人に贋作を売りつけるのは詐欺だが、玄人に贋作を売りつけるのは勲章」という、本書に繰り返し登場するフレーズに忠実に行動している。
そういった意味では、本書は詐欺を題材にしたクライム・ノベルという見かたもできる。
もっとも、犯罪の重苦しさはなく、被害者も切羽詰っていないし、お互い様の意識があるので気楽に読める。そのあたりは「ギャラリーフェイク 」と変わらない。
「あんた、欲に眼ぇ眩んだら、目利きを誤りまっせ」
このフレーズに代表されるように、欲に目が眩んでとんでもないものをつかまされる話が山盛りである。
そして連作の短編集を貫くテーマは「本物とは何か」ということ。
墨絵を剥いだ「相剥ぎ」、オリジナルの原型から複数の本物が作成されるブロンズ像、前時代のものをまねて作った中国磁器など、本物とも偽者ともつかない物が本書にはあふれかえっている。
骨董屋の駆け引きをシンプルに楽しむことの出来る反面、本物とは何かを考えさせられる作品である。
☆☆☆☆(☆四つ)
黒川博行氏の小説をご存知の方には蛇足だが、本書の登場人物は基本的に関西弁である。それが苦手な人は注意してほしい。
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