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奈良時代のワーキングプア:国銅 [小説]


国銅〈上〉 (新潮文庫)

国銅〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: 帚木 蓬生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 文庫



国銅〈下〉 (新潮文庫)

国銅〈下〉 (新潮文庫)

  • 作者: 帚木 蓬生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 文庫



比較的珍しい奈良時代を舞台とした小説。
長門国の人足が平城京に上って大仏を作成する過程を描く。

筆者の帚木蓬生は「閉鎖病棟 」で精神病患者の閉塞感に包まれながらも必死で生きる様子を描き、「アフリカの瞳 」では貧困とAIDSに直面しながらも自分の人生に向き合うアフリカの人を描いたように、絶望の淵にいながらも日常の生活を送る人を描くことが非常にうまい。

そして、本書も奈良時代の製銅所と大仏建立現場での苦役に喘ぎながらも、必死で生きる人足たちの様子が非常にうまく描けている。
一発逆転を願って私鋳銭に手を出し奴隷に落とされる者、将来に絶望して自殺するもの、刹那的に生きることを選び現場から行方を眩ます者、病に冒されながらも愛する人を待ち続ける者……

本書は決して明るい物語ではない、人足達の生活は絶望にまみれており、ラストシーンも見方によっては救いがない。
しかし、絶望を乗り越えた主人公は「己の仏」を心に抱いて強く生きていくであろうと言う、将来への希望もまた残っているラストシーンは読んでいて感動に包まれた。


このように、奈良時代の人足達の生活を描いた本書だが、ちょっとひねった視点で見てみると、本書で描かれているのはワーキングプアの生活そのものであることもにも気づく。
現代のワーキングプアとは異なり、生活のために働くのではなく税金替わりの苦役と言う点に違いはあるが、一日を生きるために必死で働いても、搾取のせいで豊かになれず、簡単に死んだり行方不明になったりしていく様は現代のワーキングプアに重なる。

本書では十数人の人足が登場し、そのほとんどはワーキングプアを地で行く人々なのだが、主人公だけはワーキングプアを脱出する機会に恵まれ最後まで生き残る。
この差はどこから来るかと言うと、主人公は好奇心にあふれ、さまざまの知識を吸収し、読み書き・数の勘定・薬草の知識で自らの地位を確立するのだ。
もちろん、主人公もまた一介の人足であり、立場は脆弱で一歩間違えれば儚く消えて言ったであろうことは想像に難くない。
しかし、それでもワーキングプアから脱出する有力な方法は、知識・教育であることが描かれている本書は、図らずも時代を先取りしていたのかもしれない。

ワーキングプアのくだりは私の感想であるが、そういった深読みせずとも涙を誘う良作であることは間違いない。

☆☆☆☆(☆四つ)



他のブログの反応はこちら等。
無名の人にスポットライトを当てた歴史小説(有名人は行基上人と聖武天皇がちょっと描かれるぐらい。どちらも台詞なし)でありながら、ヒューマニズムあふれる作品であり、悪い評価は余り見当たりません。
http://koshihikari.blog.so-net.ne.jp/2008-02-16
http://kohinatayou.blog69.fc2.com/blog-entry-95.html
http://huutyann1.exblog.jp/6705349/
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