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大きな敵役の死:狼花 新宿鮫IX [小説]


狼花  新宿鮫IX (新宿鮫 (9))

狼花 新宿鮫IX (新宿鮫 (9))

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/09/21
  • メディア: 単行本



本書はシリーズの大きな転換点である。正直言って、このシリーズをどうやって続けていくのかが、分からなくなるぐらい、主人公を取り巻く環境に変化があった。


まず、本書で起きた一番の変化は、最大の敵役であったロベルト・村上=仙田勝の正体が明らかになり、かつ、仙田が死んでしまうことだ。
正直言って、私がこのシリーズで一番好きなキャラクターは主人公鮫島でも、ヒロイン晶でもなく、主人公最大のライバル仙田だった。政府ややくざ者を嫌い、さまざまな犯罪を犯すが、麻薬を憎む信念には一本筋が通っており、かつ、仲間を尊重し、ボスと部下と言うよりある種の同志的扱いをする人間的魅力も備えている。
そのように魅力的な悪役が、本書で死んでしまったため、本書の楽しみの一つが失われてしまった。

さらに言うなら、最大の敵役の死に際が私の感覚からすると、余り美しくない。人物造形はさすがに良く練りこまれており、本書では謎の多かった人物の生涯がよくわかる様になっている。ただ、その反動で謎の少なくなった人物として行動し、死んでいくので、死に際が今まで私の描いてきたイメージと異なるように感じられたのだろう。

本書で起きた大きな変化はもうひとつあり、鮫島の同期であり、キャリア官僚として公安の出世コースを歩んでいた香田に大きな変化が訪れるのだ。
余りネタバレをしても読む楽しみがなくなるため、こちらは詳しくは書かないが、次巻以降は香田の動きに着目せざるを得ない。ダークサイドに堕ちて悪人になるのか、鮫島と協力するような人になるのか、信念を貫くため政治の世界に行くのか……。
どれも有りそうだし、もっと変わった道を選びそうでもある。ここは、次巻以降でじっくり楽しませてもらうようにしたい。

本書は、桃井・藪を含めて、警察側の人間は活躍の場が多く、壮大なスケールで進む話なので、従来からのファンなら間違いなく楽しめるであろう。話の端緒がナイジェリア人というアフリカ人の犯罪で始まるあたりも、現代の情勢にマッチしている。
ただ、晶の出番はほとんど無いので、鮫島と晶の掛け合いが好きな人には物足りないかもしれない。

☆☆☆☆(☆四つ)




他のブログの反応はこちら等。
人気シリーズだけにエントリは多く、一方的な賞賛のみならず勢いがなくなった、鮫島が脇役っぽくなった等の否定的なエントリも多数目に付きます。初期の頃と作品が変わってきているのは事実なので、そこをどのように考えるかによって、感想が変わる部分はあるのでしょうね。
http://minamikasai.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_37c6.html
http://mackie20.seesaa.net/article/90109183.html
http://blog.livedoor.jp/seitaisikoyuri/archives/50990621.html
http://babyspoon1968.blog34.fc2.com/blog-entry-27.html
http://yaplog.jp/kuroi-daikiti/archive/474


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コメント 6

koyuri

トラックバックありがとうございました!!

重要人物がフェードアウトするのは、「風化水脈」あたりから如実になって来ましたね。

全く別の敵役が登場してシリーズが続くのかどうか。

著者の年齢と共に、シリーズが徐々に変遷して行くのが楽しみでもあります。
by koyuri (2008-06-22 11:38) 

book-sk

>koyuriさん
コメントありがとうございます。
本書でも中国人の女等、次以降にひょっこり出てきてもおかしくない登場人物も居ましたが、変化が大きいですよね。

次以降も気になる作品です。
by book-sk (2008-06-22 19:45) 

たいさんぼく

トラックバックありがとうございました。

実はマトモなトラックバックをしていただいたのは初めてでして、
「また変なのが来てるヨ~」としばらく放置しておりました。・・・ごめんなさい。
私は大沢氏の作品が大好きですが、残念ながら鮫さんは上位にはおりません。
トップは「天使の牙」「・・・爪」のアスカです。
氏の作品は、人気に流されること無く、常に新しいミステリー、ハードボイルド、に挑戦しているので興味を持って新しい作品を手に取ることが出来ます。
「新宿鮫」は初版から何年たったのでしょう。
私たちの時の流れと同じ中に鮫島を存在させている大沢氏の感覚を尊敬しています。
by たいさんぼく (2008-06-23 15:14) 

book-sk

>たいさんぼくさん
コメントありがとうございます。
確かに、大沢在昌氏の凄いところは、時代の流れとリンクしているところと言うのは全く持って同感です。
他にもすばらしい作品が多いのも事実で、図書館でも結構払拭気味です。
by book-sk (2008-06-23 21:33) 

街猿

トラックバックありがとうございました。

『氷舞』で鮫島がエミリに惹かれてしまって以来、
“二人の関係に変化が生じた”ということで、
晶の出番が少なくなってきてますが、この件に関する限り
私は「かえって良かったんじゃないかな…」と思っています。

これだけ長期のシリーズとなり、まさに「時代の流れとリンクして」
いかなければならなくなった『新宿鮫』にあって、
晶の“人気のある硬派な女性ロックシンガー”というキャラ設定は、
「かなり無理が出てきているんじゃないかなぁ・・・?」
という気がするので・・・。
by 街猿 (2008-07-02 18:42) 

book-sk

>街猿さん
コメントありがとうございます。

晶のキャラクターには今見ると無理が多いですよね。
時代に即した小説としては、他に類を見ないシリーズになったので、大変だとは思いますが、これからもうまくまとめてもらいたいものです。

それにしても、著者の大沢氏自身が、こんなに長く続くシリーズだとは思って居なかったでしょうね。
by book-sk (2008-07-02 23:06) 

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