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主人公の微妙な心の動きが見所:さまよう刃 [小説]


さまよう刃 (角川文庫 ひ 16-6)

さまよう刃 (角川文庫 ひ 16-6)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/05/24
  • メディア: 文庫


二人の不良少年に娘を犯され、殺された男が復讐をのために犯人を捜す過程を通じて、復讐をもくろむ男の心情と、それを取り巻く周りの人間の模様をうまく描いた作品。
ミステリとしてもちょっとしたものであり、東野圭吾の作品と言うことで期待しても、その期待を裏切られることは無いであろうと言う作品である。
私の感想は以下。


本書最大の見所は、激情に駆られて犯人の一人を殺した主人公が、冷静に残りの犯人を追う中で、自分の信条に微妙な揺らぎが発生し、理性で最も正しいと思われる道を取るのか、感情の赴くままに復讐を遂げるのかの間で揺れる心情がしっかりと手に取るように描かれている点である。
自分だったらどうするだろうかと考えた時に、この主人公の反応はリアルだ。最後のシーンでの選択は賛否分かれるかもしれないが、人の親としてはこういう反応をするのだろうと言う説得力を持って、本書の主人公の行動を追いかけることが出来る。

加えて、主人公の心情の揺らぎを引き起こす主人公を取り巻く状況の描写もリアルだ。
少年法の壁に阻まれて、極悪な犯人でもたいした罰にならないという、いまや使い古された設定に基づきながら、実際にそういう事件があったときに周りで発生しそうな反応を実にリアルに描いている。
被害者の母親、共犯者の父親、共犯者本人、犯人に共感を示す警察官、犯人を手助けする女性、事件にたかるマスコミ等、被害者を助ける人、犯人をかばう人、被害者を食い物にする人といったリアルな人間達が事件の周りに発生し、このストーリーに真実味を与えている。

いわば正統派の社会派ミステリで、重厚な作りと共に、少々古いミステリファンから、若い読書家まで万人に受けるであろうつくりになっている。
このテーマを選んでただ単に説教くさいストーリーにするのではなく、ちょっとした驚きのラストと共にしっかりとしたエンタテイメントに仕上げている筆者はさすがである。

この本を読んで新たな知識的発見や、躁状態になる興奮感は味わえない。
しかし、過度に下品にならず、ただ心を沈ませるだけではない面白さと救いが本書には存在する。物語に引き込まれながらもしっかりと楽しむことの出来る良作である。

☆☆☆★(☆三つ半)





他のブログの反応はこちら等。
エントリとして目立ったのは、自分は主人公の行動に対して、どちら側の立場をとるかというもの。
しかし、どちらの立場をとるにしろ、本書はそれに対する疑問と救いを描いている。
ある意味受けが広い小説なので、そこが受け付けないと言う意見もあったが、間口は広い。
http://cadse.blog.so-net.ne.jp/2008-08-11
http://urahiro.livedoor.biz/archives/51650602.html
http://blog.goo.ne.jp/ini-2004/e/051d72e948f754e893413e9f8a0f908f
http://d.hatena.ne.jp/Alternative/20080807/1218101578
http://blog.goo.ne.jp/yossan_y/e/bf7ebda124b34279848287a24c4bb30e
http://d.hatena.ne.jp/argius/20080727/1217257951
http://blog.goo.ne.jp/ippoyomo1956/e/ad785846bba192ccccee6c53fa98bf5b
http://mba.livedoor.biz/archives/51701139.html



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