SSブログ

年金問題ではなく、年金制度の本:年金問題の正しい考え方 [社会]


年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)

年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)

  • 作者: 盛山 和夫
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/06
  • メディア: 新書



本書のタイトルは「年金問題の正しい考え方」だが、正しくは「年金制度の正しい考え方」である。
内容はすばらしく、正しい内容なのだが、筆者が決定的にわかっていないと思われることがある。それについて意見があるので、以下で述べてみたい。

【目次】
Ⅰ 信頼衰退の根源にあるもの
第1章 年金に加入するのは損か得か
第2章 世代間格差はなぜ生じたか
第3章 格差と負担増をめぐる二つの誤解
Ⅱ 制度の持続可能性―二〇〇四年改正を検証する
第4章 年金会計の基本
第5章 年金の収支バランスを維持するには
Ⅲ 世代間と世代内の公平性
第6章 相対的年金水準とは何か
第7章 未納は本当に問題なのか
第8章 基礎年金の消費税化を検討する
第9章 年金の一元化とは何か
第10章 税方式あるいは積立方式への転換論について
終章 安心して信頼できる年金をめざして 


本書は年金制度の経緯、現在(2004年改正後)の年金制度、将来にわたって安泰な制度を作るためにはどうすればよいかと言うことを、しっかりとしたデータを元に、説得的に書いている。

年金は基本的に得な制度であり、どうせ返ってこない等の理由で入らないのは個人的には損となる行動であることや、年金に世代間格差がついてしまったのは、最初に年金が導入された1973年スキームがあまりにも稚拙で、誰でもわかるような大盤振る舞いシステムであったことがわかる。
マスコミや評論家の言葉を鵜呑みにしている人は、一度本書で年金制度をしっかりと勉強してみるのがいいだろう。ただし、本書でも書かれているが、将来の制度はどうなるかわからないので、将来的に年金制度で絶対に損をしないという保証は無い。

筆者は年金の受給額は、現役世代の可処分所得の○○%と言う形で決めてしまうのがよいであろうと主張する。
確かに、この方式なら、人口が減ると保険料率が上がるとともに可処分所得が減るので給付も減って現役世代・受給世代ともに痛みを分かち合うところで、うまく折り合いがつくと思われる。
筆者が後半で主張するように、年金の税方式移行には独特の問題点があることや、未納がたいした問題ではないこともよくわかる。

本書は、そういう意味では正しい年金制度についての本であると言える。

しかし、筆者は年金問題の一番やっかいなところが理解できていない。
年金問題の何がやっかいかというと、制度的に何が正しいかと言うよりも、制度的にどういう制度が公平で理解をえら得るかという方が重要であるという点である。

年金の税方式移行が大きな支持を集めているのはその制度が正しいからではない、税方式移行に伴って、今までいい加減な制度を運営してきた社会保険庁を解体できるからだ。それによって、社会保険庁の責任を追及できる。
同じように、年金の積み立て方式への移行が主張・支持されるのは、それが受給者にとって得だからではない。積み立て方式に移行することで、いい加減な1973年スキームを作り上げた世代の受給を減らして、責任を追及できるからである。
また、3号保険者(サラリーマンの妻)の年金支出が無いことが批判されるのは、それが2号保険者厚生年金加入者から見て不公平であるからではない。筆者が言うように3号保険者も、2号保険者も負担は同等なのだが、制度的にあまり恵まれていない1号保険者たる国民年金加入者や年金が払えずに無年金者になってしまった人がスケープゴートを求めているからなのだ。

現在のサブプライムローンの問題でも、日本の失敗から学んだ一番正しい方法が議会で否決されている。論理的に正しく、みんながハッピーになる道でも、納得感が得られない方法は社会制度としては採用されないのだ。
これと同様に、日本の年金制度も正しい制度ではなく、公平に見えて多数の納得が得られる制度が求められているのだ。私見だが、筆者の言うような正しい制度であることをいくら主張しても、誰も血を流さず、責任をとったように見えない制度では年金制度への信頼は回復できないであろう。

著者の盛山和夫氏は東大教授だが、本書は役人が書いたように、緻密で理論的にもおそらく間違えていないいい仕上がりになっている。その点では一読の価値がある良書であるのだが、人の納得感という年金問題最大のポイントをうまく説明できていないので、現実問題に対する処方箋にはない得ていない。
それでも、年金問題について関心のある人は一度は読む価値のある本である。少なくとも、本書を読んでいれば、えせジャーナリストの言うことを信じて軽々と年金を未納したりすることはできなくなるはずだ。

☆☆☆★(☆三つ半)

他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://blog.livedoor.jp/red_newhaya/archives/213089.html
http://blog.livedoor.jp/kokusai2005/archives/50706201.html
http://blog.goo.ne.jp/libra1963/e/6bf6e8b7e16e00a1565df473459da21a
http://d.hatena.ne.jp/antaka/20071205/1196818255
http://takehana.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_51f0.html
http://blog.goo.ne.jp/lyonkimamaclub/e/b35b7f60a1ee6237f01c959eb080f0ca

ポジティブな評価と言っても、筆者の主張に賛成と言うよりも、年金制度を考えるいい材料となったという意味でポジティブな評価を下しているものが多かったのが印象的である。








カスタム検索

nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 2

Sanchai

これから読もうと思っていたので解説が参考になりました。ありがとうございます。
by Sanchai (2008-10-01 01:06) 

book-sk

>Sanchaiさん
コメントありがとうございます。
若干図表や数式が見づらいですが、内容としてはよくまとまっていていい本だと思います。
感情に対する言及はあまり十分ではありませんが。
by book-sk (2008-10-01 22:14) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。