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ロスジェネのそれぞれを鋭く描いた:ロストジェネレーション―さまよう2000万人 [社会]


ロストジェネレーション―さまよう2000万人

ロストジェネレーション―さまよう2000万人

  • 作者: 朝日新聞「ロストジェネレーション」取材班
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2007/07/06
  • メディア: 単行本



ロストジェネレーションの現状を鋭く描いた本。
新聞社の取材力がうまく利用できていると思う。
新聞社の主力顧客を批判することとなるロストジェネレーション問題に対する答えや、根本原因は書かれていないが、ロストジェネレーションの現状は非常にうまく取材されている。



【目次】
第1章 なぜ、ロストジェネレーションは生まれたか
第2章 ロストジェネレーションの落ちた罠
第3章 ロストジェネレーションはさまよう
第4章 ロストジェネレーションは挑む
第5章 ロストジェネレーションの未来
第6章 ロストジェネレーションが動き出す


第1章が「なぜ、ロストジェネレーションは生まれたか」となっているが、根本原因ではなく、ロストジェネレーションの多くがワーキングプアとなってしまった背景を描いている。
以下第2章でワーキングプアになったロストジェネレーションの人の現状を描き、第3章では転職を繰り返すロストジェネレーションが描かれている。
第4章はロストジェネレーションの中の勝ち組、ナナロク世代について書かれており、第5章ではワーキングプアになったロストジェネレーションの非常に暗い未来がシミュレーションされている。
ここまでは非常にうまく取材されていると思う。

最後第6章だけは、ロストジェネレーションの連帯、政治活動、社会貢献等にスポットが当たっているが、ここはレアケースを一般化しすぎているように見えてしまう。もしかすると、私が知らないだけなのかもしれないが。


私は1976年生まれ、ちょうどロストジェネレーションの世代である。現在の境遇は一部上場企業の正社員なので、ナナロク世代として語られるような勝ち組ではないが、ワーキングプアにもなっていない。本書でもちょっと触れられているように非常に激務ではあるのだが。

そうした私から見ても、本書は非常に取材が行き届いていると思う。ワーキングプアにならざるを得なかった社会背景をきっちりと解説し、ワーキングプアになってしまった人の現状も生々しく描かれている。ワーキングプア問題としてひとくくりに語るのではなく、世代独特の事情がにじみ出てくるのである。

本書は、取材という意味からは非常に良書なのだが、根本原因にあっさりとしか言及されていないことが残念だ。ロストジェネレーションが生じてしまった原因の多くは、団塊の世代+その直下の世代が、自分たちの既得権を守ってロストジェネレーションを切り捨てたからである。
ここをあっさりと流してしまっているのは、団塊の世代がまさに新聞の主たる購買者であるためであり、新聞社の限界でもあるのだが、それでも本書は新聞の取材力なしではできなかったと思うので微妙なジレンマに陥ってしまう。


本書を読んで思ったのは、団塊の世代の既得権を守るためにロストジェネレーションは生まれた。生産性の低い中高年を守るために、新卒が切り捨てられて多くのワーキングプアが生み出されたのだ。
しかし、グローバル化の時代にあって、そうした生産性の低い中高年がいつまでも守られているとは思えない。
では、いつその状態が正常に戻って、働きに応じた給与が払われるようになるのだろうか?
おそらく、ロストジェネレーションの少ない正社員が中高年になったとき―つまり、今から10~15年後ではないかと思われる。本書にもあるように、ロストジェネレーションは団結力がない、つまり、政治力が低く、しかも世代の中でも守られるべき正社員は少ないのだから。
つまり、ロストジェネレーションは戦後日本において形成されてきたひずみのツケを2度払わされることになるのだろう。
そう考えると、76年生まれの私はちょっぴり憂鬱だ。


☆☆☆☆(☆四つ)

参考:
こっちの問題は自己責任だと思う:高学歴ワーキングプア
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-09-13
NHK取材班の取材による本、本書とはTVと新聞という違いで見てもおもしろい:ワーキングプア―日本を蝕む病
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-10-01

他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://talkinloudchairs.blog32.fc2.com/blog-entry-29.html
http://36splane.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/2000_0a15.html
http://locobook.blog60.fc2.com/blog-entry-165.html
http://sociology.jugem.jp/?eid=191
http://blogcq.livedoor.biz/archives/50455803.html
(ネガティブな評価のエントリ)
http://d.hatena.ne.jp/tazan/20070808

高給取りの朝日新聞社員が書いているため、他人事になっているという批判は確かにもっともだとも思えますが、現時点ではこの取材は新聞以外では難しいであろうのも事実。ジレンマを感じてしまいます。
ロストジェネレーション世代より直下の世代の方が悲惨になる可能性もあるというエントリもありましたが、現時点では、おそらくロスジェネ世代が一番割を食っているでしょう。私の悲惨な予想が当たらないといいと思いますが……。








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