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魅力的な人物、意外性のあるストーリーに彩られた最高級のミステリ:脳男 [小説]


脳男 (講談社文庫)

脳男 (講談社文庫)

  • 作者: 首藤 瓜於
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 文庫



首藤瓜於の江戸川乱歩賞受賞作。
中盤にちょっとだれるところがあるのだが、終盤に向かって一気に引き込まれていき、気づいたら読み終わっているような力のある作品である。
本書のストーリー

愛宕市の刑事、茶屋は連続爆破事件の容疑者である緑川を追い詰める。
緑川を逮捕するに当たって、茶屋は緑川が別の男と一緒にいる所に遭遇するが、緑川には爆弾による抵抗を受け、逃げられてしまう。
緑川と一緒にいた鈴木一郎と名乗る男は、未発見の爆弾のありかを自供したところから、共犯として裁判にかけられるが、行動に不可解な点が多く、鑑定にかけられることになる。
鑑定医の鷲谷真梨子は、鈴木一郎の人物に興味を持ち、医者としての範囲を超えて過去を調べる。そうした中で、意外な事実がわかり、茶屋、鈴木、真梨子の3人は爆弾犯緑川と再び向き合うことになる。


本書の一番の謎は、鈴木一郎の正体とその人物像。
爆弾犯の共犯として裁判にかけられることになるが、犯人逮捕に当たっては茶屋を救出するなど全くの共犯とは思えない行動を多く取る。しかし、その割には、裁判で自らの無実を主張することはしない。
とにかく謎が多い人物なのだ。

このエントリの冒頭で、中盤はちょっとだれると書いたが、それは鈴木一郎のエピソードが多く出てくるため、謎ばかりが溜まって話が進んでいく感じがしないためなのだ。
そのもやもや感も、物語が進んで鈴木一郎の人物像が明らかになってくるにつれて、一気に晴れてくる。それと同時に、今までつかみ所の無かった人物がとてつもなく魅力的に見えてくるのだ。

鈴木一郎のミステリが解消した後は、サスペンスとなり、手に汗握るシーンが次々と展開される。
特に、主要人物4人が再び巡り会うシーンの緊迫感は抜群で、電車で降りるべき駅を乗り過ごしてしまった。
そのぐらいの迫力が本書の最終盤には存在する。

サスペンス、ミステリとして高いレベルにある本書であり、読んでみる価値のある書籍である。


最後ネタバレになるが、本書を読んで思い出したのは、久坂部羊の「無痛」。こちらのメインテーマは医療の限界であり、本書とはあまり関係ないのだが、主要な登場人物の一つが本書の鈴木一郎とだぶるのだ。
ただ、キャラクターとしての魅力は鈴木一郎の方が圧倒的に上回る。
【参考】
メインキャラクターつながりで読んでみるとおもしろい。こちらも良質なミステリである、「無痛」のエントリはこちら
http://book-sk.blog.so-net.ne.jp/2008-07-07

☆☆☆☆★(☆四つ半)

他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://blog.livedoor.jp/youweb/archives/51159105.html
http://pandoranikki.blog69.fc2.com/blog-entry-667.html
http://kanatanorz.exblog.jp/9020129/
http://horadeverdad.seesaa.net/article/2976871.html
http://kuronekotei.blog17.fc2.com/blog-entry-522.html
(ネガティブな評価のエントリ)
http://sobahon.jugem.jp/?eid=139
http://semishigure.air-nifty.com/essay/2004/04/post_17.html

デビュー作だけあって、作りの粗いところは多いし、説明が多くなる中盤はちょっとだれる。そうした意味でネガティブな評価や、苦言があるのは理解できる。
それでも、最後にはぐんぐん引き込まれるし、読み終わった後の充実感は最高。作りの粗さをカバーして有り余る魅力を持った小説であると思う。







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