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タイムスリップが楽しめる:総会屋錦城 [小説]


総会屋錦城 (新潮文庫)

総会屋錦城 (新潮文庫)

  • 作者: 城山 三郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1963/11
  • メディア: 文庫



日経平均874円88銭、1ドル360円。本書が書かれた昭和34年のデータである。
本書は、日経平均8,000円、1ドル90円の時代を生きる我々とは、全く異なった感覚を持つ世界を舞台とした経済小説である。
【目次】
総会屋錦城
輸出
メイド・イン・ジャパン
浮上
社長室
事故専務
プロペラ機・着陸待て


株主総会でヤジと怒号を武器に質問を封じ込め、株主総会が5分未満で終わることを誇りに思う総会屋と、そうした総会を良しとする経営者。
1ドル360円という相場の元、円というマイナーでローカルな通貨ではなく、世界に通用するドルを獲得するために法を犯し、命を削る商社マン。
メイド・イン・ジャパンの刻印を何とかして打たないで済むように努力する経営者。

今では見られなくなった、上記のような登場人物を要する、昭和51年生まれの私には思いもつかない、世界が本書には存在する。
総会屋錦城が現代で同じことをすれば、刑務所直行であろうし、「輸出」で描かれるように、1円でも安く売るために法律を破るような非常識な商社は今では存在しない。

そうした異次元の経済小説の中でも、一番印象に残ったのは「メイド・イン・ジャパン」
低品質の代名詞であるメイド・イン・ジャパンと書きたくないために、あの手この手で努力する経営者の物語である。
バック・トゥ・ザ・フューチャー」で、故障した部品に「メイド・イン・ジャパン」の刻印を見つけ、「やっぱり」と言い放つ昔のドクと同じ世界が本書には存在する。
そして、「日本製は高品質」と反論するマーティと同じ感覚を持つ私たちが見ると、まさにタイムスリップしたような感覚に陥るのだ。

筆者の意図したのとはおそらく違う楽しみ方だが、現代の私たちが本書を読んで楽しむ方法としては、タイムスリップ感覚を楽しむというのが一番適しているように思う。


筆者の城山三郎は、同時代を生き、広い意味で社会派という共通項を持つ松本清張と違って、現代での人気は今ひとつである。
思うに、清張と違って筆者の小説はリアルなのだ。リアルであるが故に、先進国となり、世界第2位の経済大国を経験した今では別世界の出来事に思えてしまう。
本書の世界は時代劇で見る剣豪や忍者より遠い世界に思えてしまう人もいたのでは無いだろうか??
当時のリアルを知る人が少なくなるに連れて、忘れられていく宿命にある作家なのかもしれない。

☆☆☆★(☆三つ半)

他のBlogの反応はこちら等。
(ネガティブな評価のエントリ)
http://someshinknew.blogspot.com/2008/07/blog-post_4839.html
http://blog.livedoor.jp/rockcity1987/archives/55190346.html
(ニュートラルな評価のエントリ)
http://blog.livedoor.jp/llanelly/archives/50589662.html
(ポジティブな評価のエントリ)
http://vladimir-kyoto.seesaa.net/article/36053672.html
http://zhizhi.at.webry.info/200610/article_2.html

筆者の直木賞受賞作であり、代表作なのですが、書評エントリは少なく、死亡ニュースのエントリの方が多く見受けられました。
死亡がニュースになる筆者のような大作家でも、代表作が売れなくなるのは早い。
出版業界の苦しさがわかるような気もします。








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