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希望の光か?悪夢の再来か?:貧困のない世界を創る [社会]


貧困のない世界を創る

貧困のない世界を創る

  • 作者: ムハマド・ユヌス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/10/24
  • メディア: 単行本



ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス著の本書。
ソーシャル・ビジネスについての説明と、ソーシャル・ビジネスの希望が熱く語られている。

私が読んで絶望を感じた「最底辺の10億人」のエントリ「アフリカ 苦悩する大陸」のエントリに対する回答にもなり得るだろう。

【目次】
プロローグ 始まりは握手から
第1部 ソーシャル・ビジネスの約束(新しい業種 ソーシャル・ビジネス―それはどのようなものなのか)
第2部 グラミンの実験(マイクロクレジット革命 マイクロクレジットからソーシャル・ビジネスへ 貧困との闘い―バングラデシュ、そしてさらに遠くへ 神は細部に宿る カップ一杯のヨーグルトが世界を救う)
第3部 貧困のない世界(広がりゆく市場 情報技術、グローバル化、そして変容した世界 繁栄の危険 貧困は博物館に)
エピローグ 貧困は平和への脅威である


本書は、ノーベル平和賞受賞者にして、ソーシャル・ビジネスという概念を有名にしたバングラディシュ人ムハマド・ユヌスの著作。
第一人者の著作だけあって、ソーシャル・ビジネスの概念がわかりやすく説明されているし、実際にユヌスが立ち上げたソーシャル・ビジネスの実例(マイクロクレジットやグラミン・フォン、ヨーロッパの有名企業との合弁グラミン・ダノンの取り組み等)が豊富に語られていて、ソーシャル・ビジネスが非常に具体的にイメージできる。
翻訳書にしては、翻訳が非常にうまく書かれているので、文章でストレスを感じないことも大きなプラスだ。

ユヌスの理念は非常に高尚であり、魅力ある語り口で信念を持って語られているので、ユヌスの描く貧困・環境汚染・病が無くなった未来が実現可能であるようにも思えてしまう。実際に、私が役所に勤めていた頃から親交のあるキャリア官僚の中でも、ユヌスは非常に人気で、その理念に共感する人は非常に多かった。

私も、本書を読んで、紛争のない地域から貧困を一掃するには非常に良い取り組みだと思った。
しかし、あまのじゃくな私は一つの恐怖も浮かんでしまったのだ。

ソーシャル・ビジネスが行き渡り、ユヌスが描くようにソーシャル・ビジネス市場まで作られるような未来が来ると、ソーシャル・ビジネスは貧困国から先進国までカバーするようになり、多くの企業は利益重視から社会幸福重視に転換するのだろう。
そうした社会は、19世紀に髭のドイツ人が夢見て、後に全世界を覆う悪夢となった夢と同じ所に行き着いてしまうのではないだろうか?
私は本書を最後まで読んで、この悪夢を振り払うことができなかった。

ユヌスの語る夢は一見してバラ色に見えるし、特に日本では広く世間的に受け入れられそうな内容をしている。
遠くない未来に日本でソーシャル・ビジネスブームがきても驚かないぐらいだ。
それでも、人間の欲望を社会奉仕に置き換えるユヌスの思想には危うさを感じてしまう。

私が考えすぎなだけかもしれないし、30代の私と違って、20代の人や50代以上の人ならもう少しすんなりと受け入れられるのかもしれない。
本書は、内容は素晴らしいし、考えさせられることも多い。
私と同じ引っかかりを覚えるか否か、是非読んでみてほしい一冊である。
お金だけの内容がある一冊であることには間違いない。

☆☆☆☆★(☆四つ半)


他のBlogの反応はこちら等。
(ポジティブな評価のエントリ)
http://mayumignon.seesaa.net/article/114523103.html
http://riseluck.blog97.fc2.com/blog-entry-1003.html
http://takayuri.blog4.fc2.com/blog-entry-238.html
http://barbare.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-564b.html
http://blog.goo.ne.jp/rainygreen/e/fb17fcf5f0d93d65b48044b83ff5f29a
http://flowrelax.blog43.fc2.com/blog-entry-427.html

皆さん大絶賛。本の出来が良いのはもちろんですし、インチキくさい受賞者も多いノーベル平和賞受賞者にしては非常にまともな筆者の言葉には確かに力がある。
私と同じ懸念を表明している人は見つかりませんでした。私があまのじゃく過ぎるのかな?






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コメント 2

mayumignon

トラックバックありがとうございました。
確かに、髭のドイツ人Mさんの主張と相通じるところがありますよね。
わたしは、この潮流は、
過去の失敗も踏まえた資本主義の成熟ではないかな、と思います。
ドイツ人Mさんも、
ロシア人Sターリンさんのような手法を是としてはいなかったのでは、
ともう少し勉強してみようと思っています。
また、おじゃまさせてください!
by mayumignon (2009-03-19 06:25) 

book-sk

>mayumignonコメントありがとうございます。

資本主義の成熟なのか、共産主義の亜種なのか……。
これほどまでにつかみにくい本は久しぶりでした。
じっくり考えることができたのは楽しかったですね。

ちなみに、ぱっと見でスパムコメントと思って削除しそうになったのは秘密です。
by book-sk (2009-03-20 20:07) 

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