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ベーシック・インカムの末路??:アホウドリの糞でできた国―ナウル共和国物語 [社会]


アホウドリの糞でできた国―ナウル共和国物語

アホウドリの糞でできた国―ナウル共和国物語

  • 作者: 古田 靖
  • 出版社/メーカー: アスペクト
  • 発売日: 2004/12
  • メディア: 単行本



太平洋の真ん中に、ベーシック・インカムが実現されたかのように、働かなくても豊かな暮らし(日本人の中流家庭程度)が出来るだけのお金がもらえる国が1990年ごろまで存在していた。その国の名前はナウル。
働かなくても生きていける国が、その手段を失った時にどうなるか?
不労所得を失って、お笑いといえるまでに迷走するナウルという国を面白おかしく描いた本書。
ベーシック・インカム前面肯定派には是非読んで欲しい一冊。

【目次】
1 ハッピーゴーラッキー
2 チェックメイト


第一章が植民地時代から、アホウドリの糞(が風化して出来たリン鉱石)で大金持ちになるまでのストーリー。
第二章がリン鉱石が枯渇して、国家としてギャグのような迷走を始めてからの笑い話である。

ナウルは第二次世界大戦後に大日本帝国から独立してから、1990年前後にリン鉱石が枯渇するまで40年~50年の間は資源によるベーシックインカム状態で、労働をしなくても豊かな生活をすることが出来た。
産油国と違って、ナウルは資源の収益を国民に平等に分配していたし、資源の収益に引かれて外国人の労働者がやってくるので、労働から完全に自由になったのだ。所謂現代の日本人が想像する労働だけでなく、自炊までしなくなったというのだから徹底している。

ところが、その生活を支えていたリン鉱石が枯渇すると、労働の週間が無くなって久しいナウル人はほとんどギャグのような行動を取り始める。
これまでナウル人は、自給自足の生活、労働を強いられる植民地生活、働かず遊ぶ生活、しか経験していません。信じられないことですが、働いてお金をもらいながら生きていく、という発送はなかったのです。


燐鉱石はほとんど残っていないのに、解決策はなく、(オーストラリアから援助金目当てで受け入れた)難民が増えました。今後どうするのかを決めるのはナウル政府です。でも方針が決まりません。

小田原評定を地でいく行動を21世紀の国家政府が始めます。そして、
観光ビザの発給が止まりました。唯一の入国手段だったナウル航空も営業を停止しました。ナウルは青い海の真ん中に孤立してしまったのです。
2003年1月、ナウルは2つの声明を発表しました。ところが大統領の名前がそれぞれ違っています。何か事情があって大統領が2人いるのか、それともクーデターが起こったのか、単なるミスなのか、もはやナウルには入国できないので、どちらの声明が正しいのか誰にもわかりません。

この情報が発達した現代で、内戦状態でもないのに、正しい大統領が誰なのかわからなくなる。
そんなことって有るんですね……。

2月になると、オーストラリア政府が「ナウルと連絡がつかない」と発表しました。突然、ナウルへの電話、インターネットが通じなくなったのです。国が丸ごと行方不明になるなんて、前代未聞のこと。

国が丸ごと行方不明って……。ミステリ小説でもそんな設定をすれば、トンデモ設定として2ちゃんねるで叩かれることでしょう。

他にも、援助金とバーターで引き受けたはずの難民を拘束し続けないと、(援助スタッフの落とすお金や、インフラ維持のオーストラリア軍がなくなって)ナウルの生活が成り立たなくなったため、裁判を起こそうとする弁護士をビザ発給禁止で追い出したり、
民間金融機関から借りた金を返せずに、国の保有する不動産を差し押さえられたり、
オーストラリアに「いっそ独立を放棄しては?」と言うトンデモ提案を本気で提案されたり、
迷走の限りを尽くしたギャグ状態がつづくので、本書の後半部分を笑わずに読むことは難しい。

働かなくても暮らせる世の中はろくな状態にならないことがよくわかる一冊。
意外と深い話題のはずなのに、笑いがいっぱい。JTおとな講座の人が画く挿絵も愛嬌たっぷりで気軽に読める。

あまり注目されていない一冊で、30分かからずに読める程度の分量しかないけど、それでもお薦めできる一冊である。

☆☆☆☆(☆四つ)

他のBlogの反応はこちら
(ポジティブな評価のエントリ)
http://neteoki.blog7.fc2.com/blog-entry-544.html
http://okagawa.seesaa.net/article/116884721.html
http://ikumu.exblog.jp/2632035
http://tadachi.txt-nifty.com/blog/2008/02/post_53c1.html
http://blog.livedoor.jp/nodaira/archives/13727677.html
(ニュートラルな評価のエントリ)
http://d.hatena.ne.jp/kaeru3/20090923/p1

個人的には、本書を読むと働かずに暮らせるほどのベーシックインカムは明らかに国家にとってマイナスにしかならないと思う。
もちろん、配布コストを下げるために、給付付き税額控除を導入したり、ベーシックインカム類似の制度で補助金を撒くのはいいことだと思いますが。





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コメント 9

Sanchai

こんにちは。本書ご紹介下さりありがとうございました。私は本書は読んでいませんが、昔著者の古田さんのブログを参考にして記事を書いたことがあるので、トラックバックしてご紹介させていただきます。
by Sanchai (2009-11-15 02:44) 

book-sk

>Sanchaiさん
コメントありがとうございます。

筆者のブログも面白いですよね。
トラックバックもありがとうございました。
by book-sk (2009-11-16 22:01) 

sonatine

こんばんは。
トラックバックありがとうございます。
私も
>働かなくても暮らせる世の中はろくな状態にならないことがよくわかる一冊。
に激しく同感しました。

by sonatine (2009-11-18 23:44) 

NO NAME

ベーシックインカムと何の関係もなさそう。
働かなくても食えた事が「国家破綻」の原因ではなく、
資源の枯渇を想定した策を打たずに資源の売却益だけに財源を求めた結果が原因でしょ。要するに阿呆ばかりの国だったと。

日本人は賢いし働き者だから、BIが導入されても、国家体制が揺らぐほどの「怠け」は発生しませんよ。

印象操作って、見抜ける人には何の効果もないんです。
by NO NAME (2009-11-19 20:53) 

book-sk

>sonatineさん
コメントありがとうございます。

私が本書を読んで考えたのは、1世代(40年~60年)って、机上で考えると短いようでも、実際に生きている人の生活習慣を変えるには十分長い期間だと言うことです。
専業主婦とか持ち家信仰だって、団塊の世代ぐらいから始まった常識のはずが、日本の常識みたいになってしまっているでしょ。

名無しさんのコメントの様な考えもあるでしょうが、働かなくても生きていけるぐらいの金額をばらまかれる生活が続くと、全体的には、労働に対する意欲は確実に低下すると思われます。
BIだって、どこかから財源を確保しなければいけない(ましてや、日本には資源がないのだから)のに、労働意欲を低下させる側面を持つのでは、確実に矛盾すると思うのです。

ちなみに、名無しさんの言う、”資源の枯渇を想定した策を打たずに資源の売却益だけに財源を求めた結果”というのは間違いです。本書に一回目を通してみてください。
by book-sk (2009-11-19 22:38) 

え

そもそも現行のBI論で遊んで暮らせるほどの額を配布するなんてとんでもない発言をされている方が何人いるのでしょうか。
月五~七万円で家事も一切せずに生活できるんですか、すごいですね。家計簿見せてください。
by え (2010-03-25 10:02) 

book-sk

>えさん
人のBlogに書き込むときはちゃんと考えてからの方がいいと思いますよ。

1.
私は「働かずに暮らせる」とは書いたけど、「遊んで暮らせる」とは書いていません。遊んで暮らせるなんて言っている人はそりゃ存在しないでしょ。「家事も一切せず生活できる」というのは曲解だと思います。
2.
月5~7万と自分で言っているなら、以下のことを考えてみてはいかがでしょうか?
・現行の国民年金は月7万円弱です。それでも暮らせないのでしょうか?
・貴方は結婚できない人かもしれませんが、一家四人なら月20万~28万です。それでも生活できないのでしょうか?
3.
配布される金額が労働なしでは生活できない程のものなら、それはベーシック・インカムと呼んでいいのでしょうか?
ベーシック・インカム制度は、他の社会給付を極限まで減らす代わりに均等額を給付する制度では無いのでしょうか?

そして、一番考えて欲しいこと。
4.
私はこの書評で(月5万~7万程度の)ベーシック・インカムに反対しているのでしょうか?
だとすれば、どの部分でそれを述べているのでしょうか?

もう少し考えましょう。
by book-sk (2010-03-25 23:57) 

なお

今の日本の企業中心経済は無闇な人口増加大量消費経済です
天然資源皆無や食糧自給率低いのに消費は増大
企業経済の為だけに子供たくさん産ませ人口増やしナウルと同じになりますね(輸入外貨稼ぐ以前に天然資源消費増大で天然資源危機になりかねない)
ベーシックインカムにより過度な企業競争が減ったり農業自給自足をバックアップさせる制度もあるらしいので
食糧自給率や資源大量消費は削減されます

少子化対策人口増加政策だけのベーシックインカムなら反対ですが
by なお (2010-04-26 14:15) 

kyunkyun

はじめまして。

ナウル共和国のことを始めて知ったとき、とてもショックを受けました。
やはりベーシック・インカムは無理なのかなぁ・・・ と。
でも、その後、「宝くじ当選者」 の調査報告を調べている内に、すべての人が仕事をやめている訳ではないことも知りました。

http://www.abdn.ac.uk/wes2007/Full%20Papers/Stream%20E/123.%20Anna%20Hedenus%20FP.doc
http://organizations.haifa.ac.il/html/html_eng/Harpazpublications/Final.pdf
(* 英語の調査論文なので、詳しい内容は分からないのですが・・・)

ある方が、このようなことを仰っていました。

「しかし、生活保障が充実するとそれに依存し働こうとしないものが増えるというのが自由主義者の懸念である。
たしかに児童期、青年期に学校で努力しても報われない経験を積むだけの教育であれば、飢餓のないところで仕事に努力するという動機付けがなくなってしまうかもしれない。
それに対して、努力が報われるという内面的満足・報酬を十分に体験すれば、飢餓の心配がなくても生活や仕事の努力を続けようとするのではないかと考えられる。
生活保障の充実は、だれもがそのような努力が報われるという希望がもてる体験を積む教育改革を伴う必要がある。 生活保障の充実だけでは成立しないのである。」

ここで言われている 「努力が報われる体験」 とは、金銭的に報われることよりも、「ありがとう。 とても助かったよ。」 と、人から感謝されること、 そして褒め称えられること、称賛されること─
ではないかと思うのです。
(確かスタートレックの世界では、そのようなことが一番のプライオリティーとされていましたね。)

* ちなみに、こちらは宝くじ当選者のこぼれ話です。

* 当選して仕事をやめた、というお話
http://www.afpbb.com/article/economy/2662572/4880295

* 一度はやめたけれど、また仕事を始めた、というお話
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080327_lottery_winner_work_mcdonald/
by kyunkyun (2010-05-22 00:07) 

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