法学部的経済観からの決別:なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか―企業と家計に、いま必要な金融力 [経済]
なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか―企業と家計に、いま必要な金融力
- 作者: 北野 一
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2008/06/27
- メディア: 単行本
米国系投資銀行のストラテジストの筆者が、現在のグローバリズムが進行する環境下での日本株について、歴史の考察を交えて述べた一冊。
「企業と家計に、いま必要な金融力」との副題がついているが、投資よりも経済の見方に力点があるので、経済カテゴリーに分類した。
【目次】
第1章 脱グローバリゼーションのすすめ
グローバリゼーションと慢性的金融引き締め
創造の時代と自己資本比率の上昇
株主資本コストの過小評価とバブル経済
「三つの過剰」論という罠
資本政策転換が遅れたツケを払う人々
第2章 デフレ脱却への新戦略
史上最大の自由化としてのニクソン・ショック
不確実性と株価形成の因果
ディスインフレは「正常」か「逸脱」か
デフレは日本だけの問題ではない
金融政策と資産インフレ
第3章 構造改革の敵は誰か
構造改革とは何だったのか
生活者主権と構造改革
「新しい現実」と「新しい敵」
第4章 日本企業はいかに「生きる」べきか
世界に一つだけの日本株
日本株の「個性」を活かした投資法
グローバリゼーションで見えにくくなる世界経済
コイントスに揺れる為替と日本の運命
デカップリングする日本株
本書の特徴は、歴史的な経緯を踏まえた上で、現在の日本経済の状況をわかりやすく説いているところにある。
本書の説によると、グローバリズムが進んだことにより、株主から要求される資本コストが世界均一になってきている。そのため、日本にとっても、米国や中国と同じ水準の資本コストを要求されることになる。これは、人口減少・成熟社会になった日本にとっては過大な要求であり、低成長率なのに多くの株主還元を求められる、実質的な金融引き締め政策が行われることになってしまう。
それが原因で日本はデフレが進んで、豊かになれないのだ。
この問題に対して、筆者は解決策も準備している。
資本コストの高い株主資本を減らして、デフレで金余りになってコストの下がった借入金で会社を運営すればいいのだ。早い話が、自己資本比率を下げることが日本企業が安定成長軌道に戻る道だというのだ。
この解決策は、現在の常識からはかけ離れている。
現在の常識は、借入金は低いながらも利息のかかる有償の資金だが、株主資本は会社のものであり無償の資金であるというものだ。
ここからは私の私見になるのだが、現在の常識は私が大学時代に学んだ会社法の想定する資本観そのものだ。
法学部卒業生にとっては、株主資本=コスト無し、借入金=コスト有り、と言う見方は非常にしっくり来る。
逆に、筆者の説く資本観は経済の事実から導かれるものなので、法律の想定からは離れているように見える。
そして、ご存じのように日本の経営者・経済政策を決める官僚は法学部卒業生が多い。
これが、自己資本比率を無駄に高めようとする原因の一部になっているのではないだろうか?
私も「ゴミ投資家のためのインターネット投資術入門」(だったかな?)を見るまで、株主の要求に応えなくてはいけない株主資本は時と場合によっては借り入れのコストより高くつく、と言う事実を考えもしなかった。
本書も、株主資本のコストが高くつくことを主張しているが、そうした経済の常識を法学部的経済観の持ち主が認めるのは難しいだろう。
日本のエリート階級における法学部偏重主義の弊害はいろいろなところで言われているが、本書の説く、自己資本比率を低める絵ことによる資本コストの引き下げが出来ないのも、そうした弊害の一つかもしれない。
このようにとりとめもないことを考えながら読んでいたのだが、本書は歴史的事実やデータから現在の状況を説いており、説得力も非常に存在する。
2008年の出版だが、将来的な円高もきっちり予言しており、一読の価値はある。
学者の理論と言うより現場の理論で書かれているので、理屈よりも実践・肌感覚を求める人にも受け入れやすいだろう。
☆☆☆☆(☆四つ)
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投資現場の人間の考え方がわかる。
私は経済の本として読んだけど、人によっては投資にも役立てられるかも。
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