くじびきショーグン:籤引き将軍足利義教 [歴史]
読売新聞より
町長選くじ引き決着、2候補票同数…青森・大鰐
27日に投開票が行われた青森県大鰐(おおわに)町長選で、一騎打ちとなった2候補の得票が3524票ずつの同数で並び、公選法の規定に基づき、くじ引きで決着する珍しい事態となった。(後略)
地域行政の長をくじ引きなんかで決めるとは、公選法の欠陥だ!時代遅れだ!と嘆く人もいるかもしれない。
でも、日本には地域の長どころか、国王を籤引きで決めた世界でも珍しい歴史があるのだ。
【目次】
第1章 足利義持の薨去と籤引き将軍の誕生
突然の発病
後継指名拒否 ほか
第2章 皇位継承と卜占
堀河天皇譲位と軒廊御卜
後鳥羽天皇践祚と卜占 ほか
第3章 神判・卜占・抽籤
卜占の世界史 神判とはなにか ほか
第4章 義教の“神裁政治”
義教の治世始まる
湯起請による裁判 ほか
本書が主なテーマとしているのは2点。
一つは我が国における卜占、神判の歴史。中世の人々が超常的な力を信じていた頃に、卜占がどのように政治にかかわっていたか?というもの。この点については、欧州・中国とは異なる我が国独自の事情が語られている。
もう一つは、籤引きという神の意志の体現として将軍に選ばれた足利義教はどのような政治を実現したか?というもの。こちらについては、日本の歴史では珍しい王権神授の亜種を見るようでなかなか興味深い。
第一テーマの卜占と政治の関わりについては、平安時代~室町時代においては、皇族等における跡継ぎの選定や領地紛争の解決など、かなり重要な問題でも占いによって決定されていることにまずびっくりする。
しかし、それ以上に驚いたのは、迷信深かったはずの当時の人々でさえ、”占いによる意志決定は議論を尽くした後の最後の手段”であることをきちんと認識していたことだ。
本書のテーマになった籤引き将軍も、初手から籤引きで決めたのではなく、前将軍が危篤になった際、候補者が4人の兄弟(しかも全て坊主)しかおらず、武家の統領としての資質を誰も知らなかったために、最後の手段として籤引きを用いているのだ。
このように、籤引きによる神の判断は我が国において、かなり謙抑的に利用されてきた。
ところが、その籤引きで選ばれた将軍義教は、坊主出身という育ちもあり、自らが”神に選ばれた”ことを強く意識し、独裁的・神がかり的になってしまう。
神に選ばれた意識からか、簡単に籤引き・湯起請(熱湯の中に手を入れ、やけどをしなかった人が正しいとする裁判方。古代の盟神探湯に同じ)による意志判断を濫発するような暴走を始めるのだ。このあたりは、歴史の皮肉を感じずにはいられない。
中世日本の占い事情と、我が国では珍しく”神に選ばれて”将軍になった男の数奇な人生をテーマにした本書。
歴史小説の舞台にはなりにくいマイナーな時代をテーマにしているが、意外と味わい深い一冊である。
☆☆☆★(☆三つ半)
他のBlogの反応はこちら
(本書をポジティブに評価するエントリ)
http://blog.livedoor.jp/respectden/archives/50580268.html
あまりエントリがないが、意外と興味をくすぐられる一冊。
この時代の予備知識が多い人は少ないだろうから、逆にオススメです。
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