転落の螺旋の先には:ニサッタ、ニサッタ [小説]
乃南アサが描く現代の最下層。
同じようなテーマでも桐野夏生の「メタボラ」は連載媒体が”あの”朝日新聞だと言うこともあって左翼テイスト満載だった。
だが、本書は純粋に現代社会を滑り落ちていく螺旋を描いているだけで、左翼特有の恨みがましさがないので、読んでいて暗い気持ちにならない。
その一点だけでも、ハッキリ言って、こっちの方がオススメだ。
本書はちょっぴりだらしない若い男が主人公。
そのだらしなさが故に、会社を身勝手な理由で辞めて、派遣で働くことになり、派遣も続かずにネットカフェ難民になって、なんとか借金だけを返したものの、東京から逃げるように地元北海道に帰る。
当然地方には仕事がある訳もなく、アルバイトで日々の生活を送る……。
ネタバレを防ぐために最後まで書かなかったが、現代ではありがちな転落の螺旋だ。
ポイントは主人公自身がちょっとだらしないという点で、私も昔に書評を書いた「プレカリアートの憂鬱」にもあるように、一応日々の生活を成り立たせている人から見ると、貧困に落ちる人の多くはどこかだらしないことが多い。
その特徴をうまく捉えていて、それでいて、単なる自己責任論を支持する気になれない描写をしている本書は社会派の視点で見ても秀逸だ。
くわえて、本書は単なる社会への警鐘ではない。
物語としても波瀾万丈で先が読めずにハラハラしながら読み進められるし、登場人物もキャラが立っていて魅力的。直木賞作家の実力を十二分に発揮したエンタテイメント作品だ。
分量は分厚いものの、一気に読み進める作品。
政治的なカラーはなく、悲惨な感じもないので、たいていの人にはオススメできる。
☆☆☆☆★(☆四つ半)
他のBlogの反応はこちら
(本書をポジティブに評価するエントリ)
http://chikaova.blog123.fc2.com/blog-entry-972.html
http://blog.goo.ne.jp/judastree1955/e/dccf46cbb4a0c5c180fbdb82e43b2054
http://blog.goo.ne.jp/taroyuto/e/d6ccc802b0cf3d6414bc53a50a9caa54
http://blog.goo.ne.jp/polo-/e/ecd358c2c417b4123d141a572b612ac5
http://pumila.jugem.cc/?eid=1382
http://ameblo.jp/hanadiary/entry-10433675178.html
本書の裏テーマは、人生と夢。
人生に夢は必要なのだろうか?将来のことを見ていない人間は生きていく資格がないのだろうか?
今の世の中、”夢”を持たない人に厳しい風潮があるけど、それは正しいのだろうか?
トラックバックありがとうございます。
この本、ふつうの若者の社会的滑落をテーマとした類書の中では、
イチオシだと思います。
読後感、さわやかです。
それにしても、昨日も買ったばかりの通学定期を紛失
してきた、
「どこかだらしない」息子を持つ母にとっては身につまされますわ!
私、斜里町のおばあちゃんに感情移入してしまいました。
by ちかおばちゃん (2010-07-14 05:26)
>ちかおばちゃん
コメントありがとうございます。
最近はこの手のテーマも見かけるけど、これはその中でもピカイチですよね。
過度に暗くないのが良いと言うか……
by book-sk (2010-07-14 23:22)