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脳への新しいアプローチ:ソーシャルブレインズ入門 [科学]


ソーシャルブレインズ入門――<社会脳>って何だろう (講談社現代新書)

ソーシャルブレインズ入門――<社会脳>って何だろう (講談社現代新書)

  • 作者: 藤井 直敬
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/02/19
  • メディア: 新書



今までの科学は脳は脳単品でその機能を探ってきた。
それでも脳には分からないことも多いのだが……。
本書の取り組みは、ソーシャルブレインズの文字通り、社会の中でつながる脳を対象とした研究をしている。
脳の働きの新しい側面と、科学のフロンティアに挑む研究者の興奮で、知的刺激を受けること間違いなしの一冊だ。

【目次】
第1章 ソーシャルブレインズとは何なのか?

脳はどうやって機能を拡張してきたのか?/ひとりきりの脳はどこまで脳なのか?/お茶とケーキに手を出しますか?/社会的ゾンビ/「空気」とゾンビ/脳の自由度について考える/透明人間になったのび太/創造性との関係/ハブという考え方/脳と社会と階層性ネットワーク……


第2章 これまでのソーシャルブレインズ研究――顔、目、しぐさ

顔はなぜ特別なのか?/脳はどのように顔を認知するのか?/目の力/しぐさの力/ミラーニューロンの意義と問題/自他の境界/仮想空間の腹腕/コミュニケーションとタイミング/鏡の中の自分は誰?/脳の中のペプシマンと身体イメージ/他者認知のしくみを読み替える……


第3章 社会と脳の関わり――「認知コスト」という視点

ミステリで考えてみる/ミーティングで携帯を頻繁にチェックする部下/社会的駆け引き/頑固なサル/ルールと脳について考える/9・11のあとにアメリカで感じたこと/アイヒマンの発言「私は命令に従っただけだ」/ミルグラム実験/スタンフォード監獄実験/人は何でもやりかねない/脳と社会と倫理……


第4章 僕はどうやってソーシャルブレインズを研究しているか


第5章 ソーシャルブレインズはそもそもどこにあるのか?

キーワードは「関係性」/まず二頭のサルで考える/何でもかんでも記録する「多次元生体情報記録手法」/ECoG電極の試み/消えないコーヒーメーカー/脳内ネットワークの関係性をどう記述するか/「あの二人はつきあっているの?」/脳科学研究の革命


第6章 ソーシャルブレインズ研究は人を幸せにするか?――幸せとリスペクトの脳科学

脳科学が個人にできること/赤ちゃんとお母さんの関係/無条件で認めてくれる存在/リスペクトからはじまる/母子間コミュニケーションからソーシャルブレインズへ/ソーシャルブレインズ研究のこれから


本書の内容は、ソーシャルブレインズという社会ネットワークの中でつながり合うときの脳の働きについての話と、未開拓の部分が多いソーシャルブレインズ研究に挑む筆者の話、大きく分けて二つの部分から成り立っている。

ソーシャルブレインズの内容については、至極もっともな疑問と、興味深い研究結果が述べられている。

PCの機能を考えるとき、スタンドアロンの能力しか研究しないのは妥当だろうか?
もちろんそんなことはなく、PCの機能の多くはネットワークとしてつながることでその真価を発揮する。
人間の脳も同じで、一人っきりで外界からの刺激を削除されて単調な実験を行うという、従来の脳科学で研究対象となっていた脳は、人間本来の脳ではない。
多くの人とつながる中で、社会的関係性を踏まえた上で反応するのが、人間の脳の真骨頂である。
筆者が本書で紹介してくれている、「認知コスト」の問題や「リスペクト」の価値を見いだす研究などはその一端で、より人間の脳本来の姿に迫っている感覚を受ける。

では、何故今までこのような研究がなされていなかったのだろうか?
単純化して言うと、社会の中での脳の反応・働きを”科学的”に測定する方法がなかったからだ。
再現可能性を持たせた科学的実験においては、外界からの刺激をシャットダウンしたスタンドアロンの脳を対象とせざるを得なかったのだ。

このように、本来の姿と明らかにかけ離れた一分の姿をタコツボ的に研究しなければならなかったジレンマ。
これを乗り越えて、新たな脳の姿に挑む研究者が本書第2のテーマだ。
フロンティアがあることは自明なのに、そこに挑む手段は霧の中。
そんなプロジェクトX的な困難と一歩一歩研究を進めていく知的興奮。
書き方を文学的にすれば一本の物語にもなり得るような楽しさも本書には秘められている。

脳をテーマに現役の研究者が書いた本だけに、私を含め素養のない人には若干歯ごたえがある一冊。
だが、所詮は新書なので、読みこなすことは十分に可能。
将来を考えている高校生なんかに意外とオススメな作品である。

☆☆☆★(☆三つ半)

他のBlogの反応はこちら
http://developer.cybozu.co.jp/akky/2010/04/post-7439.html
http://blog.goo.ne.jp/shian_cyu/e/7b835b05b3b2feb4d10504817dbd14dc
http://webdog.be/archives/10321_150149.php
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/02/post-1163.html
エントリは少ないものの、本書は高評価。
久々に、新書らしい一冊だと思いました。





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