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国民が一丸となった時代:オリンピックの身代金 [小説]


オリンピックの身代金

オリンピックの身代金

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/11/28
  • メディア: 単行本



東京オリンピックを舞台にしたミステリ。
この小説は、実際の東京オリンピックを経験したかどうかで、反応が異なるのだろう。
本書を読んで、石原都知事をはじめとした、爺さんどもが、東京オリンピックにこだわる理由が分かった気がした

本書は、東京オリンピックを舞台に、オリンピックを妨害することで身代金を取ろうとする犯人と、犯人を捕まえようとする日本国そのものの対立を描いたストーリー。
日本国民全員が期待し、誇りに思っているオリンピックを妨害しようとする犯人の疎外感と、国の威信を賭けたイベントを守ろうとする現場の刑事の努力が見所。

本書を読み応えのあるものにしているストーリー上の理由は一つ。国家全員が成功させようと望んでいるオリンピックを妨害しようとする犯人が、国家全体を敵に回して立ち回るという一点にある。
そして、その点こそが、東京オリンピックを経験した人かどうかで本書の感想が変わると考える理由だ。

高度経済成長も終わった1976年生まれの私からすると、本書の犯人の考え方は左翼思想にかぶれている点を除けば、それなりに理解できる(だからといって、ダイナマイトによる脅迫という行動は理解不能だが、そこは小説と言うことで……)。「日本国民ならこう行動して当然」と言った画一的な考え方の方が、理解に苦しむ。

逆に、当時の東京オリンピックの高揚感を覚えている世代にとっては、国民の悲願を打ち砕こうとする本書の犯人は本当の悪役に映るのかもしれない。

このように世代によって違う感想を抱くかもと考えること自体が、それだけ日本が思いも寄らない成長を遂げたと言うことの証拠なのだろう。

このように、犯人に抱く印象はわかれるにしても、小説自体は非常に素晴らしい。
犯人の孤独感、東京オリンピックの高揚感、当時の日本人の自信と謙遜が混じった微妙な心情などの描写が優れており、読んでいて昭和初期の日本を十分に体感できる。
エンタテイメントとしても十分に薦められる一冊である。

☆☆☆☆(☆四つ)

余談にはなるが、本書で描かれた熱狂を見れば、平成22年の今でさえ、夢よもう一度で東京オリンピックを推進する人の気持ちも理解できるようになることは間違いない。
理性で考えれば、「お札を聖徳太子にすれば日本経済は上向く」というぐらい現実感のない、ただの懐古趣味だと言うことは分かるのだけど。

他のBlogの反応はこちら
(本書をポジティブに評価するエントリ)
http://gataoyazi.seesaa.net/article/163315120.html
http://crutonpapa.at.webry.info/201008/article_37.html
http://emam.cocolog-nifty.com/emam/2010/09/post-125a.html
http://ameblo.jp/komakichi/entry-10210827334.html
http://ameblo.jp/junn-411334/entry-10313988491.html
http://blog.goo.ne.jp/itchy1976/e/3e65cfaaa05d0890bb0d3ac1de3d92bd

高評価のエントリ多し。
もはや昭和初期は「歴史」の範疇ですよねぇ……。






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コメント 2

emam

はじめまして、TBをありがとうございます。
ほんと、この本は読み応えがあって、引き込まれました。
やっぱ、奥田英朗さんの長編って、凄いと思います。
by emam (2010-10-04 06:15) 

book-sk

>emamさん
コメントありがとうございます。
ここまで重厚な作品は奥田英朗の中では異質かもしれませんが、面白いことには間違いないですよね。
軽い作品も大好きなんですが、また違った味があって良かったです。
by book-sk (2010-10-05 22:53) 

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