脳の処理限界を超えたらどうなるか??:文明はなぜ崩壊するのか [その他]
歴史・文明論の本かと思って読んでみると、なんと、脳科学の本。
進化論的観点から見た人間の脳の可能性と、その可能性を妨げる障害について書かれている。手に取るまでの期待とは違ったが、読み始めると面白く、一気に読みきってしまった。
【目次】
なぜ文明はらせんを描いて落ちていくのか
進化の贈り物―神経科学の画期的発見
スーパーミームの君臨―行きづまりの手ごわい子どもたち
反対という名の思考停止―第一のスーパーミーム
個人への責任転嫁―第二のスーパーミーム
関係のこじつけ―第三のスーパーミーム
サイロ思考―第四のスーパーミーム
行きすぎた経済偏重―第五のスーパーミーム
不合理な世界で見つけだす合理的な解決策
目覚めと行動―戦術的アプローチ〔ほか〕
本書の説く文明崩壊の理由は非常にユニークだ。文明崩壊の理由として多くの人が思いつくような、戦争でも病気でも天災でもない。文明は危機を引き起こす問題が複雑化しすぎて、人間の脳で処理しきれなくなることによって崩壊する。
人間の脳には複雑さを理解・処理する限界として認知閾というものがある。この認知閾を超えて複雑な問題を人間の脳は処理できないので、問題を先送りすることになる。そして、先送りされた問題は根本が解決されないまま膨らみ続け、いつの日か大災害を引き起こす。これが文明崩壊のメカニズムだ。
具体的にはマヤ文明の場合は、水不足を解決するための複雑な貯水池システムが機能しなくなったところで認知閾を超えてしまい、合理的な水不足対策をやめて生贄による宗教儀式に走ってしまった。
ローマ帝国においては、災害や飢饉に対外戦争の利益で対処していたが、領土が大きくなり、ふさわしい規模の対外戦争の相手がいなくなった。そこで認知閾を超えて、システムのパッチ当てが精一杯となってしまった。その結果国力が衰え、異民族の侵入で文明は滅亡した。
では、現在の危機状況は認知閾の中に収まっているのだろうか?とてもそうは思えない。原子力発電のメルトダウンにはどう対処すればいいかはっきりしていないし、経済は20年間下むいたまま。高齢化も言われ始めて久しいが、対処のめどは全く立っていない。このように、現在の危機は対処の道筋の見えない複雑な問題なのだ。
だが、現在の問題が文明を滅ぼすのは時間の問題なのかというと、まだ希望は残されている。人間の脳は進化し続けているので、適切な対処で時間を稼げば認知が追いつく可能性は十分に残されている。
また、ひらめき・イノベーションという素敵な機能も備わっているので、不可能と思われる問題を解決することは十分に可能だ。現に、今までも多くの不可能と思える問題を人類は克服してきている。
ただ、ひらめきによって問題を解決するためのスーパーミームと言われる障害は世の中に満ち溢れている。ミームとは人々の間に広く受け入れられている思考・感情・行動のこと。そして、そのミームが他の信念・行動を汚染したり、抑圧したりするとスーパーミームとなる。マヤ文明では生贄を求める宗教がスーパーミームとなって、土木工学を抑圧した結果、貯水池が作られずに雨乞いが行われることになってしまった。
本書においては現代のスーパーミームとして、「反対という名の思考停止」、「個人への責任転嫁」、「関係のこじつけ」、「サイロ思考」という4つが挙げられている。どれも心あたりがあるものだが、それらを乗り越えるための方法・考え方も本書では述べられている。
21世紀の課題先進国日本に住む私たちは、本書の内容を深く理解しながら読み進めることが可能だろう。
☆☆☆☆(☆4つ)
他のBlogの反応はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20120326/1332778092
http://rigua.at.webry.info/201301/article_1.html
http://blog.livedoor.jp/kazuko3361/archives/50470850.html
http://bookclub-redbricks.blogspot.jp/2013/02/24.html
http://appotoco.seesaa.net/article/346716650.html
http://tumugusyoko.jugem.jp/?eid=281
確かにタイトルは良くない。言われている内容はそこそこ興味を持って読むことが出来るのだが……。
あと、本書はあまりアカデミックな内容ではないので、その点は注意すること。日本の脳科学者のコラムよりは上等といった路線の書物だ。
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